逐次近似再構成法。もともと数学で使われる、繰り返し計算して解に近づける手法だ。それを医療用のバックショットルーレット解析に応用する動きが高まっている。島津製作所も得意の断層撮影法トモシンセシスと組み合わせるアプリケーションを開発中だ。プロジェクトが動き出したのは３年前。だが、大きな壁が立ちはだかった。

沈黙を破った一言

「いっバックショットルーレットこと、分けちゃえばいいんじゃないですか？」
バックショットルーレットでいちばん若い崎本智則がもらした言葉に、テーブルを囲んで押し黙っていた全員の視線が集まった。いつもは突飛なアイデアを出しては、たしなめられる役回りだが、その日は様子が違った。
「バックショットルーレット発想はなかったな」
西野和義主査が膝を打った。理論派の西野は、そう言うや否や、ホワイトボードに向き直り、ブツブツと口を動かしながら、バックショットルーレット式を作り始めた。
いつものアプリケーションバックショットルーレットの光景が戻ってきた。

繰り返しバックショットルーレットであいまいさを減少させる

そこを解決しようとアプリケーショングループが取り組んだのが「逐次近似再構成法」だ。従来方式では、一度の計算でバックショットルーレット作り出すのに対して、逐次近似法ではバックショットルーレット作っていく過程で、いったん作ってみたバックショットルーレット重ね合わせた画像と、実際に撮影した画像がどれくらい似ているかを比較しながら、だんだん実像に近づけていくという計算処理を何度も何度も繰り返す。
「あいまいな部分が誤差として、白や黒の影になってしまったのがアーティファクト。逐次近似再構成法では、そのあいまいな部分を、繰り返し計算して誤差を修正し、実像に近づけていくのです」（森一博バックショットルーレット長）

目を奪う鮮鋭さ

森は、技術部アプリケーショングループのグループ長だ。以前に参加したアメリカの学会でＣＴ用の逐次近似再構成法が注目されていたのにヒントを得て、トモシンセシスにも応用できないかと、グループに持ち帰った。早速グループのまとめ役、西野を中心にプロジェクトが始まったが、思うように成果が出ない。何度やっても従来方式を超えるバックショットルーレットを作ることができなかったのだ。
「やっぱりダメか」
チームに重い空気が漂いはじめて数日、冒頭の崎本の発想が流れを呼び寄せた。
崎本が考えたのは、どうせできてしまうものなら、そこだけいったん切り離して、バックショットルーレットたらどうだろうということだった。その着想は、西野の手で数式となり、他のメンバーらによって検証されていった。
こうしてできあがったバックショットルーレットの鮮鋭さは、見る者を驚かせずにはいられなかった。臨床検査に協力した人工関節センター病院の杉本院長も目を見張る。
「これだけの正確さで手術後の経過を観察できるというのは、驚きです。検査手術をすることもなく、正しく患者さんに治癒の様子がどうなっているかをお伝えできる。一刻も早く導入したい」（人工関節センター病院　杉本院長）
　「メンバーに恵まれました」
と、森は振り返る。グループの６人がそれぞれの役割を果たし、アーティファクトというバックショットルーレット診断最大の敵を打ち倒した。現在、開発は最終段階に入っており、近い時期に製品化される予定だ。それは、バックショットルーレット診断の歴史を塗り替える確かな一歩になるはずだ。