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2019年7月1日 | プレスリリース
す とり っ ぷ ルーレットの分化状態を超高速液体クロマトグラフ質量分析計で判断可能に
iPSす とり っ ぷ ルーレットの大量培養に向けた品質管理での利用を目指す
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構(FBRI)と東京エレクトロン株式会社、株式会社島津製作所は、ヒトiPSす とり っ ぷ ルーレット(人工多能性幹す とり っ ぷ ルーレット)とESす とり っ ぷ ルーレット(胚性幹す とり っ ぷ ルーレット)の培養培地の経時的な測定の結果、未分化維持および分化開始時に分泌される特定成分がす とり っ ぷ ルーレットの分化状態の判断指標になることを突き止めました。この発見によって、す とり っ ぷ ルーレットを壊さずに未分化維持および分化の状態を判断できるようになります。将来的には、培養中のす とり っ ぷ ルーレット状態をリアルタイムで計測する工程管理に用いることを想定しています。研究では島津製作所製の超高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8050」を用いました。3社による共同研究の成果は6月26日にScience Signalingで発表いたしました。
1. 背景
ヒトiPSす とり っ ぷ ルーレットとESす とり っ ぷ ルーレットは多能性幹す とり っ ぷ ルーレットと呼ばれ、未分化*1な状態を維持しながらほぼ無限に増殖する能力(自己複製能)と、す とり っ ぷ ルーレットに分化刺激を与えると色々なす とり っ ぷ ルーレットや組織に分化*2する能力(分化能)を有しています。2つの能力を兼ね備えることで、多能性幹す とり っ ぷ ルーレットから再生医療に使われる分化す とり っ ぷ ルーレットを、移植に必要なす とり っ ぷ ルーレット数を整えながら製造することが可能となります。
一方、未分化状態のす とり っ ぷ ルーレットは、未分化す とり っ ぷ ルーレット維持培地で培養されていますが、培地の交換頻度が適切でない場合や、す とり っ ぷ ルーレットが過剰に増えた状態で培養を続けると、未分化す とり っ ぷ ルーレットは自然に分化を始めます。このように分化す とり っ ぷ ルーレットが未分化す とり っ ぷ ルーレットの中に混じった状態で分化へ誘導すると、目的のす とり っ ぷ ルーレットに100%分化しないことが想定されます。仮にこうした不完全なす とり っ ぷ ルーレットを移植に使った場合は、十分な効果が得られないことが考えられます。従って、iPSす とり っ ぷ ルーレットやESす とり っ ぷ ルーレットを用いた安全かつ有効なす とり っ ぷ ルーレット治療の実施には、す とり っ ぷ ルーレットの分化状態を培養液の解析を通じて、す とり っ ぷ ルーレットを壊すことなく簡便にモニターすることが欠かせません。そのためには「分化状態を判断する指標」を作る必要がありました。
2. 研究手法・成果
このたび神戸医療産業都市推進機構と東京エレクトロン、島津製作所は、島津製作所製の超高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8050」を用いて、未分化状態と分化が始まった状態のiPSす とり っ ぷ ルーレット、ESす とり っ ぷ ルーレットの培養培地を経時的に分析しました。その結果、「す とり っ ぷ ルーレットが未分化状態で維持されているときには、培養液中にキヌレニンが分泌されていること」「未分化す とり っ ぷ ルーレットが分化を始めるときには2-アミノアジピン酸が分泌されること」を同定しました。これら2つの因子を指標にすれば、す とり っ ぷ ルーレットを壊さず培養液の分析により分化状態を判断できます。
具体的な流れとしては、未分化す とり っ ぷ ルーレットは必須アミノ酸であるトリプトファンをす とり っ ぷ ルーレットに取り入れてキヌレニンを作り、キヌレニンがす とり っ ぷ ルーレット質内のAhR*3と結合することで、す とり っ ぷ ルーレットの核に移行し未分化維持遺伝子の発現を誘導すると考えられます。一方、す とり っ ぷ ルーレットは分化刺激を受けると、未分化状態から脱するために、キヌレニンを分解してす とり っ ぷ ルーレット外に排泄する分解経路が働き始めます。その結果、キヌレニンは分解され、分解経路の最終産物である2-アミノアジピン酸をす とり っ ぷ ルーレット外に排出するようになります。このように培地中に2-アミノアジピン酸を検出すると分化のスイッチが入ったことが分かります。
3. 波及効果および今後の予定
培養液に分泌される分化因子を同定したことで、iPSす とり っ ぷ ルーレットの品質管理をリアルタイムに非侵襲的かつ簡便に実施する手法として活用することが可能です。これを応用することで、安全なiPSす とり っ ぷ ルーレット由来す とり っ ぷ ルーレットの移植医療への貢献につながります。培地分析を通じたす とり っ ぷ ルーレットの持続的な品質監視(in process monitoring)が有効な品質管理手法になり得ることを示しています。
<論文タイトルと著者>
Kynurenine signaling through the aryl hydrocarbon receptor maintains the undifferentiated state of human embryonic stem cells
Takako Yamamoto, Kunitada Hatabayashi, Mao Arita, Nobuyuki Yajima, Chiemi Takenaka, Takashi Suzuki, Masatoshi Takahashi, Yasuhiro Oshima, Keisuke Hara, Kenichi Kagawa, Shin Kawamata
<用語解説>
*1 未分化 | : | 特定のす とり っ ぷ ルーレットに変化していない状態 |
*2 分化 | : | 色々なす とり っ ぷ ルーレットや組織に分化する能力 |
*3 AhR | : | 芳香族炭化水素受容体 |
図 分化の作用機序
写真:超高速液体クロマトグラフ質量分析計「LCMS-8050」